文学と史書の名場面1
香爐峯(こうろほう)の雪は簾(すだれ)を撥(かか)げてみる『枕草子』
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雪のたくさん降り積もった朝、格子(こうし)を降ろし、炭櫃(すびつ)に火をおこして、みんなで物語をしていると、皇后の定子が、お側の清少納言に「香爐峯の雪、いかならん」(香爐峯の雪はどのようでしょうか)とお尋ねになった。唐の詩人白居易の詩に「遺愛寺(いあいじ)の鐘は枕をそばだてて聞き、香爐峯の雪は簾を撥(かか)げてみる」という有名な一節があって、皇后は清少納言になぞかけをされたのである。清少納言は黙って女房に格子を上げさせ、みずから御簾(みす)を高く巻き上げてみせたので、皇后は微笑まれた、というエピソードである。

清少納言の才知ぶりを示したこの話は、教科書にも紹介されて有名なものであるが、『枕草子』にはそのあと、みんなが「詩そのものは知っていたけれど、そんなこと思いも寄らなかった、やっぱりこの皇后にお仕えするのにふさわしい人だ」と評価した、とみずから書いている。そんなところが紫式部にいわせると「したり顔にいみじう侍りける人」(高慢ちきな人)ということになるのかもしれない。

この場面を再現するとき、寝殿のどちら側の格子を開けるかによって状況が変わってくる。南面の格子は一枚格子であるから、格子を内側に引き上げ、その外にかかる御簾を巻き上げることになるだろう。東西の壺に面している側では上下二枚格子になるから、外側の格子の上半分を外に引き上げ(下半分はそのまま残すか撤去するか)、内側にかかる御簾を巻き上げる。文面からではどちらとも判断できないが、どちらにしても風流は寒いことではある。

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東面の二枚格子の場合

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南面の一枚格子の場合